ハルカナルトキノカナタヘ

 本当は、今回の感想文は米澤穂信著の「氷菓」のはずだった。
 が、先週届いたクロノトリガーとクロノクロスのアレンジアルバム「ハルカナルトキノカナタへ」が良すぎて、電波を受信したと言うか感想が湧いてきちゃったので、急遽差し替え。

 ここから先は、ゲームとしての「クロノトリガー」と「クロノクロス」のネタバレも含むため、当該ゲームをクリアしていない、ネタバレを見たくない方、そして「ハルカナルトキノカナタへ」を先入観無く聴きたい方は、読まない事をお勧めします。特に、トリガーとクロスにどっぷりハマった人は、こんな感想読んでないでサクッと買って浸った方が早いよ!
 

 
 
 
 
 
 
 と言う訳で、こっからは遠慮なくバンバン書くよ。まず各曲の感想。

01. 時の傷痕 ~ハジマリノ 鼓動~ / Time’s Scar
 トラッドとプログレの合わせ技という「CREID」を感じさせる曲。
 まぁ「CREID」が連想されるのは当然と言えば当然。何故ならかのゼノギアスアレンジアルバムも同じ名義、つまり「光田康典 & Millenial Fair」だからね。
 「THE BRINK OF TIME」のジャズっぽくアレンジされた「CHRONO TRIGGER」も良かったけど、メインテーマ曲をこうアレンジするかぁ、と感嘆の一言。
 一言で評するなら、疾走感を抑えて重くなった感じ。
 序盤からヴォーカルがある部分まではカッコいいと言うよりは神秘的な感じだけど、コーラスが終わる頃からいきなりエレキギターってのがシビれるね。
 ヴォーカル担当は(のれん分け後)ZABADAKの小峰公子。「CREID」では「DAJIL」のコーラスとして参加してたね。因みに、演奏で吉良さんも参加。残念ながら上野さんは不参加。
02. RADICAL DREAMERS
 その名の通りみとせのりこが歌う、クロノクロスのエンディング曲「RADICAL DREAMERS 〜盗めない宝石〜」のアレンジバージョン。
 オープニングの直後にエンディング持ってくるとか、粋な事するなぁ。
 アコギが前面に出ていたオリジナル版とは違って、ピアノの音が印象的。
 歌詞も英詩になっており、似た文言は有るものの訳詞ではなく、明らかにアレンジ版の為に書き下ろされている。作詞はヴォーカルを担当しているサラ・オレイン。ゼノブレイドの「Beyond the Sky」でも光田氏と組んでいたあの才媛だ。
 共通しているのは、歌詞の中身がサラ・キッド・ジールの心情を綴っていると言う所。
 普通はセルジュを探しているんだろうと思うけど、こちらはセルジュも、ジャキも、クロノも、そして母さえも探しているように思える。マールの自由奔放さに憧れ、それと同化したサラなら、会いたい人は沢山居るんじゃないかな。時を渡り歩いて、会いたい人全てに会いにいく「ラジカル・ドリーマー」……という妄想が捗る歌詞だ。
 個人的にはオリジナル版よりアレンジ版の方が好きだなぁ。声音も、ストリングスやピアノをふんだんに使ったメロディも、とても好き。
 今回のアルバムの中でもキラータイトル候補の一つだろう。
03. 風の憧憬 / Wind Scene
 もはや説明する必要も無い程有名な曲。
 クロノトリガーの中でも一二を争う名曲「風の憧憬」のアレンジバージョン。
 思いの外ストレートなアレンジで、原曲に対してとっても素直。
 何かのCMに使えそうな程のクオリティだし、これもこのアルバムのキラータイトル候補。クロノトリガーに思い入れがある人ほど刺さるなこれは。
04. サラのテーマ / Schala’s Theme
 個人的に楽しみにしてた曲。
 その名の通りクロノトリガーの「サラのテーマ」のアレンジ。
 インディゲームの企画としてあった「クロノリザレクション」で採用されていたアレンジ曲がトリガーとクロスをつなぐ素晴らしいアレンジ(「サラのテーマ」から「生命 〜遠い約束〜」につながって、もう一度「サラのテーマ」に戻る)だっただけに、原曲作曲者がどうアレンジするのかとても楽しみだったんだけど、まさかのヴォーカル入りで、裏には「星を盗んだ少女」ですよ。素晴らしい。あとヴォーカル入りと言っても、無理矢理な感じのしない良いヴォーカルアレンジになってる。
 ヴォーカル担当はローラ・鴫原(向こうではローラ・シジハーラと出る)。なんとこの方、光田氏の同業者。シンガーソングライターとしてもやっていけそうだよな。
 最初、歌詞はフランス語か? と思ったんだけど、それっぽい言葉はあるものの他がさっぱりで、ロシア語みたいなのもあるしで、もしかして造語か? と思っていたらインタビューに造語って書いてあった。やっぱりか、と思えたのは菅野よう子のお陰で、意味不明言語が出て来た場合「造語か?」と疑う癖がついてたからだなぁ。
 「RADICAL DREAMERS」はクロスのエンディングを迎えた後の「サラ・キッド・ジール」だったけど、このサラのテーマはその名の通りだね。完全にトリガーの「サラ」だわ。
 歌詞も、海底神殿に降りたサラの心情を歌ってるように思う。締めにある「あなたの心を取り戻す」とかもうね。お母さん思いのええ娘やで……。
05. 凍てついた炎 / The Frozen Flame
 クロノクロスの重要キーワード「凍てついた炎」の名を冠した曲のアレンジバージョン。「風の憧憬」と同じくストレートなアレンジ。ストリングスアレンジ、という表現が正しいかどうかは分からないが、弦楽器が全面に出されてる。物悲しいけど優美な感じがするね。
 今回のアルバムの中では一番か二番に原曲に近いんじゃないかな。
06. マブーレ / Marbule
 実は原曲には「マブーレ」という曲は無い。「マブーレ ホーム」と「マブーレ アナザー」という二曲がある。まぁクロノクロスは「そういうゲーム」だからね。仕方ないね。
 この曲は他の曲と趣を大きく変えて、原曲のエッセンスを合わせて、更にトラッドの中でも祝祭の曲のようにアレンジされている。「THE BRINK OF TIME」を知ってる人なら「GUARDIA MILLENIAL FAIR」のような感じと言えば最も分かり易い。
 あるいは「CREID」の「LAHAN」か。つまりは今回の祭枠。
07. 次元の狭間 / The Bend of Time
 「凍てついた炎」と同じくらい原曲に近いアレンジの「次元の狭間」。
 最大の違いはアコギがストリングスになってる事。
 それ以外は極めて原曲に素直。「凍てついた炎」とどちらが原曲に近いかを論ずるには音楽の造詣が俺は浅過ぎるので、同着一位と言う判断にしておく。いやそれくらい素直だよ。
 ただ受ける印象は原曲と結構違う。
 原曲が素朴だったのに対し、こっちはやっぱり優美。
 そのタイトルからして、明らかに「時の最果て」を意識してる。
08. 時の回廊 / Corridors of Time
 はい、来ました。
 クロノトリガーで「風の憧憬」に並ぶ名曲。そしてリスナーからすればそれに匹敵するキラータイトル。古代の天上フィールド曲「時の回廊」のアレンジバージョン。
 このアルバムで二つだけ「THE BRINK OF TIME」と被ってる曲があるんだけど、そのうちの一つがこれ。でもまぁ、別物だね。向こうのアレンジがそもそも別物だったし。
 原曲に素直だった「風の憧憬」に比べると、こっちは大胆にアレンジされている。そもそもヴォーカル入ってるしな。メロディ自体も「サラのテーマ」が少し混ざってる。
 他にも、バグパイプ(クレジットを見る限りイリアン・パイプスらしい)が大胆に使われているお陰でトラッドっぽさが抜群だったりと、色々違うのが良いね。
 メロディこそ「時の回廊」だけど、これは明らかにもう一つの「サラのテーマ」。
 ヴォーカルが「サラのテーマ」と同じであるというのもその感覚を後押しする。
 歌詞は「あなた」という明らかな対象に対して綴っているが、その対象が絞れない。思い浮かぶのは、母とジャキ……あるいは予言者となった魔王。あとセルジュとワヅキという可能性もあるし、さらには時を喰らうものになる次元のラヴォスを見ることも出来る。もしかしたら最初から複数存在するのかもしれないな。「あなた」とは書いてあるが、節が違えばその対象も違うと考えることも出来るし。
 まぁ兎も角、「これはもう一つのサラのテーマだ」と先述したが、ある意味では「サラのテーマ」の続き。時を食らうものへ取り込まれるまでのサラ、あるいは取り込まれた後のサラだろう。歌詞の最後はオパーサの浜、そして全ての時間軸が元に戻ったエルニド諸島を指しているように思えるな。
09. On The Other Side / エピローグ~親しき仲間へ
 原曲はクロノトリガー屈指の名シーンで流れる曲。
 サラの名はマールが口にするくらいだけど、そのシーンそのものはあまり関係がない。それはタイトルにも良く現れている。英訳が多いこのアルバムのタイトルの中で唯一、全く違う意味のタイトルがつけられているのは、そこに明確な意味があるからだろう。
 「On The Other Side」直訳すれば「対岸で」とか「あちら側で」となるが、意訳では「天国で」などとも訳されるそうだ。訳詞に準えるならば「こことは違う別の場所で」という意味だろう。これはキッドであったサラ・キッド・ジールが自分だけが覚えている仲間達に向けた歌かもなぁ。あるいは、クロノ達と出会ったサラが彼らと別れるその瞬間、地上へ送るあの一瞬に願っていた事かも知れない。
 いやぁ、妄想のし甲斐があるなぁ。
10. ハルカナルトキノカナタヘ / To Far Away Times
 原曲は「遥かなる時の彼方へ」。つまりは、クロノトリガーのエンディング曲。「時の回廊」と同じく「THE BRINK OF TIME」にも同じ原曲からアレンジされた曲が収録されてる。
 ……が、これらは明確に別物であると言えるだろう。そもそもタイトルが違う。向こうは「OUTSKIRTS OF TIME」つまり「遥かなる時の彼方へ」の海外版タイトルそのまま。
 対して、こっちは「ハルカナルトキノカナタへ」で「To Far Away Times」だ。明確に「これはクロノトリガーのエンディング曲では無いですよ」と宣言しているようなものだろう。
 歌詞も明らかにクロノ達のことを歌っているものではない。いや、クロノ達も含まれているのかもしれないが、綴られている意思は間違いなく「サラ・キッド・ジール」のものだ。
 その歌詞は、その来歴を感じさせるものになっている。幾つもの時空を渡り、セルジュに、仲間に、アルフあるいはジャキに、そしてクロノ達に会いにいくため、遥かなる時の彼方へ旅立つサラ・キッド・ジールを描いているんだろうなぁ。
 縋るような懇願にも似た影を感じる「On The Other Side」の歌詞とは違い、確かな希望と光を感じる詩なのも素晴らしいね。このアルバムの最後を飾るに相応しい名曲だよ。

■まとめ

 総評としては、このアルバムはセルフライナーノートに書かれている通り、起・承・転と名付けられていたクロノクロスのサウンドトラックを完結させるためのアレンジアルバム。
 そしてなにより、キッドとサラのためのアルバムだ。

 過去、光田氏の公式ページで発表予定作品に名前が挙がっていた「クロノクロスアレンジアルバム」を結実させた存在であることは、まぁ熱心なファンには釈迦に説法と言う奴だろうが、そのコンセプトは明確に変化してると感じる。そもそもこれはアレンジアルバムと言うよりも、「クロノクロスを作曲家の立場から補完する」アルバムだしな。
 トリガーとクロスのつながり、クロスがクロノでありながらクロノトリガー2ではない理由や、そしてそこを繋ぐサラの存在を考察している人程、どハマりするのは想像に難くない。
 俺の感想などは、まだまだ序の口。浅いもんだ。
 寧ろ、もっと深く考察して来た人に程、今作を聴いて欲しいし、その感想と考察を読みたい。

 加藤正人はメインに関わっていないらしいから、あくまでも「光田氏が考える補完」で、クロノスタッフが結集して示したと言う訳ではないが……でも、しっくり来る。
 もし、クロノブレークが結実していたとしたら、また違ったのかも知れないが……それはまぁ叶わぬ夢だし、仮に叶ったとしてそれはもう当時夢見た第三のクロノにはならない。
 寧ろクロノブレークがゲームで出来ないのなら、キリテという前例があるのだから加藤氏と光田氏で組んで、コンセプトアルバムの何枚かで綴ってくれたりしないかな。無理か。

 少々脱線したが、光田康典の二十周年を飾る意味でも素晴らしい一作。
 トリガーとクロスを繋ぎ、二つのクロノ総括するという意味でも素晴らしい一作。
 つまりは、クロノファンも光田ファンも必聴に値する一作。

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