星守る犬
映画化も決まり、一部の方面では有名な「星守る犬」の感想文。
表紙買いだったか何だったか、買う切っ掛けは忘れてしまった。
映画はまるで見る気が起きないが、漫画の方は未だに発作的に読み返したくなる。
この漫画の感想を書くに当たって、情緒不安定になるのはほぼ確定。
ネタバレは避けられない気がするので御注意を。
この単行本には二編が収められてる。
最初は表題作の「星守る犬」。次が「日輪草」。これらはまったく別の物語という訳ではなくて、いわば二つで一つの物語。読んだ事がある人にしか分からない例えで申し訳ないが、こうの史代の「夕凪の街 桜の国」に構成自体はよく似ている。
……と、言うよりもこの構成は漫画や小説では比較的ポピュラーなものなのだろう。これも読んだ人にしか分からないが、伊坂幸太郎の「魔王」とも構成は同じだ。
少々脱線したが「星守る犬」の概要としては一言で書けば「オッサンと犬のさいごのたび」。
続く「日輪草」の概要は「後片付け」と「オッサンのトラウマの清算」と言える。
両方ともオッサンと犬の関係性を描いている作品なので、犬好きの方はストレートに涙腺が破壊されることを約束しよう。逆に犬嫌いの人には感情移入がしにくいかもしれない。
まぁ兎も角、ここからは特筆する部分とかに分けて記述。
- ・主人公
- この漫画は「星守る犬」と「日輪草」で主人公が違う。
前者はある家庭に拾われた犬「ハッピー」。
後者は人生に期待する事を諦めたケースワーカー「奥津」。
この一人と一匹が主人公に配されているのが、素晴らしく上手い。
「星守る犬」ではある家庭の小さな綻びもありがちな崩壊も全て明確に描き出せる。
「日輪草」では「星守る犬」の結末で旅立つ事になった「おとうさん」と「ハッピー」を送るのに最適な人選だ。 - ・ハッピー
- まぁ身も蓋もない言い方だが、可愛い。これに尽きる。
そしてその可愛さが結末の悲しさというか破壊力を存分に高めてくれる。
逆に言えば、泣けるとばかり言われてるこの漫画の「泣ける」という部分はこのハッピーをどれだけ好きになれるか(=「おとうさん」にどれだけ感情移入出来るか)にかかってる。いわば「フランダースの犬」で泣けるかどうかという所に近い。
まぁ、「フランダースの犬」は少年の悲劇で、こちらは中年の悲劇だが。 - ・悲劇
- その悲劇、と言う部分だが「フランダースの犬」がスタートラインからマイナスだった所を、こちらは一般的かつ普遍的な家庭——要するに人並みに幸せであるという所から始まる。そこから悲劇に至る過程が、まぁ何というか非常に上手い。
実に「ありそう」な崩壊の仕方を辿る。
まぁ、致命的な部分には少々強引な所も混じるが。 - ・ひまわりそう
- 後編に当たる「日輪草」は言わばある種の清算だ。
「星守る犬」を纏めるにはこれ以上はない締めくくりに相応しい一編とも言える。
死に急いでるようにも見える「おとうさん」の行動がすとんと心に落ちる。「日輪草」が無ければ正直少々感動してもあまり心に残らなかっただろう。
あとがきで作者から「墓守である」と明言されている「奥津」だが、そう言う意味では読者と「おとうさん」の橋渡しという役割も有るように感じられる。 - ・向日葵に囲まれて
- この漫画で俺がイチオシしたいのは、何と言っても表紙。
まずその目を引く感じが表紙に必要な機能として素晴らしい実力を発揮してる。
そしてもう一つ。
凡百の漫画には無く、名作であっても結構珍しい「読んだ後で読者強く訴えかける」表紙だ。一通り読んで、その後で表紙を見ると格別だ。ここの破壊力が一番大きい。
■まとめ
総評としては、そりゃ話題になるよね。という傑作。
とは言え、犬が嫌いという人にはちょっと厳しい気もする。
俺の場合は、丁度読んだ時に保健所で殺処分される犬たちを題材にした絵のラフを描いたり、色々調べていた時だったため、特に感情移入が激しくボロボロ泣いた。
まぁ補正がかかっているかも知れないが、そんな特殊な事情が無くても心に響くと思う。
一つ一つの台詞も良いし、「星守る犬」という言葉の意味も深い。
その言葉が何故タイトルなのか。人は生きている限り誰しもが「星守る犬」だと言うけど、「おとうさん」の生き様はそれとはまた違うものなんじゃないか? ……等々、その他にも主人公「ハッピー」の名に込められた意味合いを考察すると素晴らしい深さを持つ作品。
犬好きは是非。犬が別に好きじゃなくても、一度読んでみるのをオススメします。