賢い犬リリエンタール

 連載初回から追い掛けてきた「賢い犬リリエンタール」の漫画感想文。
 作者・葦原大介の漫画はデビュー作である「ROOM303」からずっと好きなんだけど、今回取り上げるのは作者の初連載作品。色んな意味で衝撃的だった。
 もう最初からテンション高めで書いていきますよ。

 まずはこの漫画のあらすじ。

 日野兄妹の2人のもとへ、海外に離れて暮らしている両親から「あなたたちの弟いっしょに一緒に日本に帰ります」という手紙が来る。
 弟が来ることを楽しみにしていた日野兄妹だったが、2人の前にやってきたのは、リリエンタールと名乗る犬だった。
 しかも賢い犬リリエンタールは、人のこころに反応し、ぼんやり光ってまわりにふしぎなことを起こす変な犬だったのだ。
 今日もリリエンタールのふしぎな力により、日野家に騒動が起こる。
 リリエンタールは無事にりっぱな日野家の弟になれるのだろうか?
 (Wikipediaより引用)

 と、掻い摘んで言えばSF日常コメディといった感じの漫画。
 SFはサイエンスフィクションでもサイエンスファンタジーでもなく所謂「すこし・ふしぎ」。
 国民的漫画である「ドラえもん」の系譜に連なると言っても過言じゃないと思う。

 ここから先は特筆する点に分けて書こう。

・キャラクターデザイン
 本当に素晴らしい。
 ビジュアル面でもそうだけど、真骨頂はキャラクターの中身。
 どのキャラも漫画的なハッタリと現実味を織り交ぜて、素晴らしい説得力と愛嬌を持たせてる。これで作者曰く「キャラものは苦手」とか言ってるのだから、凄いよな。
 普段、あまりキャラクターに入れ込まないし、入れ込んだとしても一人二人なのに、この漫画だけは別。正直出て来るキャラクター全員が大好きだ。
・常識の匙加減
 漫画は荒唐無稽ならば全て良しという訳じゃない。
 何処かで読者の常識(或いは共感出来る部分)を取り入れなければ、読者がまったく入り込めなくなってしまう。まぁそう言うのを吹っ飛ばして成立する漫画もあるが、少年漫画でそれは厳しい。そう言う意味でこの漫画のそれは絶妙という他無い。
・ストーリー
 広げた風呂敷が(読者から見える部分は)そんなに大きくなかったのか、ストーリー的な破綻は殆ど無い。と言うより仮にあったとしてもあまりそれを感じさせない。
 この漫画の凄い所は、そういった「柔らかい雰囲気」に包まれている所だ。
 まぁそもそもストーリー漫画か? という疑問もあるが。逆にジャンプでは続けられなかった原因は、その「柔らかい雰囲気」に有ったのかも知れない。
 まったく、悲しい事だ。
・ハイレベル
 この漫画の凄い所は、構成する要素が悉くハイレベルだと言う事。
 絵柄にしても演出にしてもストーリー展開にしても、この方向性としては屈指の出来。
 結局打ち切られてしまうのだが、最後の展開も今まで育ててきた要素やキャラ性を全て活かして終わりを迎えるという、漫画の終わり方としては理想に近い形だった。

■まとめ

 総評としては、載る雑誌を間違えた傑作。という感じ。
 このレベルの漫画でもこういう方向性では続けられないと言う証明がされてしまった、という点では今の週刊少年ジャンプに絶望と諦観を強く感じさせた漫画と言ってもいい。
 ジャンプには合わないだろう、と言うのは最初から分かっていたが……だからこそ連載を続けて欲しかったという面もあるなぁ。これは愚痴だが、いつのまに週刊少年ジャンプの懐や器はこんなに浅くなってしまったんだと思ってしまう。
 とは言え、この漫画で作者の魅力がグッと上がったのも事実。
 作家買いの多い俺としては大好きな作家に出会えた幸運と、これからずっと心に残るであろうキャラクター達を生み出してくれた作者に感謝。
 そして、葦原大介という作家の活躍を大いに期待したい。
 ……差し当たってまずは短編集とかが出てくれると有り難いなぁ。
 「トリガーキーパー」と「ROOM303」は時折無性に読みたくなるんだ、ホントに。
 お願いしますぜ。

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